1997年度日本選挙学会(椙山女学園大学、名古屋)
方法論部会「政治分析における計量的方法」(1997/5/18)
電子ネットワークにおける世論調査
柴内 康文
東京大学大学院人文社会系研究科社会文化研究専攻
E-Mail:
shibanai@l.u-tokyo.ac.jp
コンピュータと、それを相互に結ぶネットワークが爆発的な勢いで普及しはじめた。国内の大手商用ネットワークNIFTY-Serveを例にとれば、1997年3月末時点での会員数は231万人で、会員100万人の時点が95年4月であったから、この約2年で131万人増と倍増以上のペースである。インターネットの伸びも著しく、全世界で数千万人のユーザーともいわれている。
このようなネットワークのユーザーは、これまでは特にコンピュータや通信自体に関心を持ち趣味としているもの、あるいは研究者などが中心であったが、最近では裾野が広がりつつあることは、ホームページのアドレスや電子メールの宛先をふだんの生活の中で見かけることが非常に多くなったことからも実感できる。特にアメリカでの普及は著しく、Muzzio
and Birdsell(1997)は、1996年選挙の調査において、選挙民の26%がインターネットの"regular
user"であったという結果を報告している。インターネット上のWWW(World-Wide
Web)のホームページが、選挙キャンペーンのためのメディアとして大々的に用いられたことも記憶に新しい。今後もますますこの傾向は進んでいくと考えられる。
このような中で、このネットワークを調査の手段として用いられないかという関心が出てくるのは当然のことであろう。CAPI(Computer-Assisted
Personal Interviewing)、CASI(Computer-Assisted Self
Interviewing)、CATI(Computer-Assisted Telephone Interviewing)といった「コンピュータによるデータ収集支援」(Computer-Assisted
DAta Collection, CADAC)の発展や、近年の調査環境の悪化などからも、コンピュータネットワークを利用した調査への期待は大きい。
本研究では、「ネットワークに接続されたコンピュータを通じて回答をする調査」を対象として、その可能性と現在の問題点について検討する。特に、(1)回答のためのインターフェイスと手法上の特色、(2)サンプル(サンプリング法)と回答者の偏り、(3)回収率についてデータに基づいて論じ、最後にWWWで行われている大規模なユーザー調査について紹介する。
電子ネットワーク調査について、回答のためのインターフェイスに着目して分類すると、(1)電子メールによる調査、(2)専用調査システムによる調査、(3)WWWによる調査の3つが現在通常に用いられているものである。まず、この3つについてそれぞれ紹介し、最後にCADACに関する研究で検討されてきた手法上の特徴について比較検討していく。
電子ネットワーク調査の中で、もっともシンプルな形式がこの電子メールによる調査(
Electronic Mail Survey, EMS)である。調査対象者に対して電子メールにより調査の依頼を行って送付した、あるいは電子掲示板などメール以外の経路で回答者が入手した電子テキストの調査票に対して、ワープロ、エディタ等で直接回答を入力し、そのまま電子メールで返送するという形式である。図表1の質問項目に見られるように、回答はマーカーのついた指定された箇所に入力するようになっており、これを処理プログラムにかけることによってマーカー部分を検索、抽出しデータセットを作り上げることができる(ただし、定形外の入力をされ、人手によるチェックが必要になることも少なくない)。
テキストで記述可能な形式の質問は全て行うことができるので、SA、MA、FAなどのフォーマットの質問を行うことができる。ただし、テキストのみしか送信できないことがほとんどであるから、絵などの刺激を提示することはできない。また、回答の順番が守られなかったり分岐などがうまくいかないといった、郵送調査などの自記式調査と同様の問題点を当然抱えている。
図表1 電子メール調査の質問例
問1
あなたは、この1ヶ月くらいの間、パソコン通信をどれくらい利用
しましたか。あてはまるものを一つお選びください。回答は以下の 《 》の中に入力してください。 1.ほぼ毎日
2.週に3〜4回 |
商用ネットワークのNIFTY-Serve(「オンラインアンケートシステム」)などのオンラインサービスで実現されているのが、この専用調査システムによる調査である。サンプリングがなされた場合は電子メールで、そうでない場合は電子掲示板やオンラインメニュー上で調査の告知がなされる。その中に記述された調査システムを起動するためのコマンドをオンラインで入力することによって、調査が開始される。まず、質問文と選択肢群が表示され、プロンプトが出て回答を入力し、終わると次の質問がといった形式で一問一問順を追って質問文の提示と回答の入力が繰り返される仕組みとなっている(図表2)。
NIFTY-Serveのオンラインアンケートシステムでは、回答形式としてSA、MA、FAが用意されており、例えば指定された個数以上の回答をしたり、選択肢以外の回答をしようとすると入力をやり直さなければならないといった簡単なチェック機能を備えている。また分岐の機能もあり、回答の結果によってさらにSQを行うといったことも可能となっている。IDのチェックによって同一IDからの複数回の回答も行えないように指定できる。ただし、リアルタイムのロジックチェックといった高度なチェック機能は(現状では)備わっていない。また、電子メールと同様にテキスト主体であり、画像等の提示は行えない。
回答はホストコンピュータに蓄積され、データセットとしていつでもダウンロードすることができるようになっている。また、調査票の入力や修正、システムの一時停止、各種設定といったシステムの保守も全てオンライン上で行うことができる。調査票は一定の書式に基づいてテキストファイルとして記述すればよく、それをホストコンピュータに送信することで調査システムとして自動的に構築される。
専用調査システムによる調査は、マーケティングや政府、公共団体の「意見募集」アンケートなどで利用される例を見ることが多い。
図表2 専用調査システムの質問例
問1
あなたは、この1ヶ月くらいの間、パソコン通信をどれくらい利用
しましたか。あてはまるものを一つお選びください。 1.ほぼ毎日 2.週に3〜4回 3.週に1〜2回 4.月に2回くらい 5.それ以下 (:のあとに数字を入力し、リターンキーを押してください) :7 ◆入力データエラー◆ [中略:問がもう一度表示される] :5 |
現在最も着目されているのが、このWWWを用いた調査である。調査告知のやり方は専用調査システムの場合と同じで、電子メールによって、あるいは電子掲示板、また他のホームページ(からのリンク)において行われる。
WWWはインターネットにおいて、ハイパーテキスト形式で情報の共有を行うために作られたシステムであるが、当初より調査ツールとして利用されることも想定されており、ページを記述するための言語であるHTML(Hyper
Text Markup Language)のなかに、調査フォームを作るためのパーツがあらかじめ定義されている。図表3にそれらのパーツ群の名称と利用例を示す。
また、WWWにおいては、静止画像を刺激として調査に組み込むことは非常に容易である。動画や音声に関してもそれほどの技術上の困難はない。また、プログラミングによって新しい入力インターフェイスを作ることもできる。図表4に示したように、スクロールバーによって保革自己同定や感情温度計の入力装置を作るといったものは、比較的容易に実現できる例の一つである。また、データの即時チェック(ロジックチェックを含む)や回答による分岐、あるいは実験研究に見られるような条件間の回答者のランダム配置や質問順序の交換などを行うこともプログラム次第で十分可能である。ただし、ひとまとまりになったページの中では、一問一答形式の専用調査システムのような回答順序のコントロールを行うことはできない。
入力されたデータは、定型化された形でホストコンピュータに蓄積したり、回答のつど電子メールで指定した宛先に送信するといったこともできる。また、調査システムの保守もネットワークを介して行うことが可能である。
以上のようなインターフェイスで行われる調査は、面接や郵送といった従来の調査に比べてどのような特色、利点を有しているであろうか。CADAC手法の広範なレビューであるde Leeuw and Nicholls(1996)によれば、コンピュータを用いた調査は、「紙とペンによる」調査と比べたときに、データの質に対して以下の利点があるとしている。
CAPI、CASI、CATIなどは専用のプログラムによって運用していることが多く、その意味でシステム設計の自由度が高いためこのような利点を持たせることが可能であるが、これまで説明してきた技術特性をふまえると、3種類の電子ネットワーク調査では上記の利点のうち主な点については図表5のようにまとめられる。電子メールがもっとも制約が大きく、WWWの自由度が高いことがわかる。専用システムは、そのシステム設計に依存するが、現状ではこの二つの中間に位置すると考えられる。ただし、メディアとしてプアに見える電子メールはシステムを選ばず、アドレスを持ってさえいればどのネットワークに参加していようとも送受が可能であるため、対象者へのアクセス可能性は最も高い。一方でWWWの調査に参加するためにはシステム的にある程度レベルの高いコンピュータを持っている必要がある。
図表5 電子ネットワーク調査の諸技法の比較
電子メール 専用システム WWW --------------------------------------------------------------------- 順序や分岐のコントロール × ○ △ 回答内容の即時チェック × △ ○ 調査設計の自由度(画像、実験) × × ○ 回答の自動定型データ化 △ ○ ○ ---------------------------------------------------------------------
さらにネットワークを用いることのメリットを付け加えると、回答者の都合のいい時間に回答をしてもらえる、また、回答者が地域的に非常に離れていても構わないといった点があげられる。ただし、このことは回答者の管理ができない、回答状況の統制が行えないことなどとも結びつく点である。
ここで、コストの問題については、特に注意しておく必要がある。確かに電子ネットワークによる調査は低いコストで行うことが可能であり、そのことがこの技法のメリットであるといわれることがある。もちろん、データのコーディングやエディットにかかるコスト、調査票や回答の郵送費(通信費)が非常に安くなることがそれをもたらしているが、実は回答者にコストを転嫁することによってそれが実現しているという側面もあることには注意をしなければならない。すなわち、ネットワークの接続課金や電話料金は、本来なら調査時間中は調査者が負担すべきであるが、電子ネットワーク調査では全て回答者の側が負担しているのである。このように考えると回答者負担が最も安いのは電子メールであり、WWWは調査上のメリットが大きい一方で、コスト的には負担が最も大きくなると考えられる。このことは、調査の回収率そのものにも影響を与えかねない要因であるので、インセンティブをつける、結果のフィードバックを返すなど十分な配慮が必要だろう。
電子ネットワーク調査の最大の問題点は、調査対象サンプルとそのサンプリング法にある。ここからはサンプルの特性や偏りの補正の技術的可能性について論じる。
まず、調査会社等がランダムサンプリングされた契約サンプルを抱え、その調査システムとして電子ネットワークを利用するといった場合には、ここでは問題が生じない。また、会社や職場等のコンピュータ環境が整備されたところを対象に行う調査や、操作とランダム配置を含んだ質問紙実験を行うような研究であれば、ほとんどはWWW上で行うことができ、またそのことによる研究上のメリットは非常に大きくなるだろう。
問題は、手法としてだけでなく、サンプルまで含めて電子ネットワークを利用して一般的な調査の実施を検討する場合である。このとき、調査の母集団は「ネットワークユーザー」ということになる。当然、ネットワークユーザー自体が、一般の母集団と比べてさまざまな特性を持った集団であることは想定できる。この点は後で論じることにして、まずユーザーのサンプリングの方法について論じたい。
電子ネットワーク調査のサンプリングの目標は、調査対象者のリスト、特に電子メールアドレスリストを、何らかの基準を用いて作成することである。ここで、リストの元となるものについて考えると、「インターネットのユーザー」といった母集団は、そもそも想定しえないことがわかる。このような中で最も確実な方法は、パソコン通信会社、あるいはインターネットプロバイダーなどの協力の下に、その会員を母集団としてサンプリングを行うことである。実際、コンピュータコミュニケーション研究においては、このやり方で行われることが多い。ただし、コミュニケーション研究以外の領域で調査を行う場合には、特定のパソコン通信、プロバイダーの会員が、少なくとも「ネットワークユーザー」として平均的と見なせるかどうかにも考慮が必要だろう。
ここで、Maisel, Robinson and Werner(1995)であげられている手法は注目に値する。彼らは、アメリカの大手オンラインサービス会社Prodigyにおいて、その会員を対象にして1992年から継続的に行われている世論調査実験について報告している。この実験では、ホストに登録されている住所、年齢、性別を用いて国勢調査の比率に合うように18才以上の会員がサンプリングされ、調査依頼の電子メールが発送されている。さらに、回収されたデータについて、年齢、性別、地域、選挙登録に基づいてウェイトがかけられて集計される。調査項目である「大統領業績評価」の時系列の傾向について、Gallup調査結果と比較を行ったところ、そのままの比率ではProdigy会員の業績評価が全体としてやや低かったものの、時系列の変化についてはProdigyの会員も一般サンプルと細部までほぼ同じ変化を示していたことが判明した。偏ったサンプルでも、時系列変化の捉える上では有効に活用できる可能性がある。
また、ほとんど例がないが、英字+数字といった構造でメールアドレスが組み立てられており、その分布にある程度の推測が可能な場合には、乱数発生によってメールアドレスリストを作成するという、いわば電話調査におけるRDD(Random
Digit Dialing)的手法によるサンプリングも可能である。ただし、これは電子メールアドレスがこのような仕組みになっているところに限られる。
他に、調査対象を決定する手段としては、何らかの電子会議室の発言記録をとり、そこでの発言者のリストを作成して調査を行う方法があり、コミュニケーション領域の研究でしばしば用いられる。同様に、ホームページの所有者を母集団に設定するために、WWWの情報探索エージェントである「ロボット(スパイダー)」を用いてリンクを網羅的にたどりながらホームページの情報を収集し、電子メールのアドレスリストを作成するという方法も考えられる。このような対象が研究に必要な場合は有効であろう。
以上は、何らかの基準で母集団が特定できるか、その特性に関する情報が得られ、電子メールのアドレスリストを作成できるサンプリング法であった。この他に電子ネットワーク上の調査としてよく用いられるものに、電子掲示板やオンラインメニュー、あるいはWWWのページ上に調査の告知をして、接触者に自発的に調査に参加してもらうという方法がある。これは、特にWWWによる調査においてよく用いられる。もちろん、探索的研究においてはそれなりの有効性もあろうが、このような方法では調査回答者の母集団や回答者の特性について推論を行うことは非常に難しく、また数の点でも分析に耐えうる十分な回答を得られるかどうかの保証はない。ただ、ランダム配置を用いた実験をネットワーク上で行うことができれば非常に意味があるし、また後述するGVUサーベイのように、名が通りかなりの回答者が集まる(しかもローデータが公開されている)調査も存在するので、今後期待の持てる可能性はある。
なお、インターネット上において、同じメッセージを電子掲示板上や電子メールとして大量、機械的に送信することは、"Spam(ming)"と呼ばれる問題行動とされ、強く非難されることが多い。調査実施に際しては、このような点に十分に配慮を払う必要がある。
最後に、今後このような調査サービスがビジネスとなる可能性について触れておく。富士通が行っているiMiネットというサービスはその例である。iMiネットはマーケティングに利用されるダイレクトメールサービスで、登録した会員へ定期的に電子メールによる企業からのダイレクトメールを送信するというものである。その中には調査協力の依頼もあり、回答した会員には「ポイント」が与えられる仕組みになっている。iMiネットの特徴は、入会時にあらかじめデモグラフィック特性や消費性向に関するプロフィールデータを登録する点であり、このデータに基づいてメールを送れる点にある。当然、セグメント化のための仕組みであるが、狙った調査対象にアクセスしたり、Maisel
et al.(1995)で見られるようなサンプリングやウェイトがけを行うために有効な仕組みであり、今後の展開が注目される。
ここでは、電子ネットワークの参加者、また電子ネットワーク調査への参加者が持つ偏りについて論じていく。
ネットワークユーザーの特色として、男性や若年層が多いこと、都市部の居住者が多いこと、高学歴で収入が高いことなどは、どの調査でもみられる一貫した結果である。
例えば、NIFTY-Serveのユーザープロフィール(ニフティ株式会社,
1997)によってネットワークユーザーのデモグラフィックな特性を検討してみると、男女比では男性81.6%、年齢構成では20代が35.1%、30代が37.2%であり、地域分布では関東地方の居住が53.5%となっている。また、情報通信業や製造業など、技術系の職業が多いことも特徴である。これを97年4月総務庁統計局発表の国内人口推計と比較すると、男性49.0%、20代15.1%、30代12.5%であり、また関東地方の居住は29.1%となっている。また、博報堂・ニフティ株式会社(1996)が、NIFTY-Serveユーザーと、それと対応する一般サンプルでいくつかのプロフィールを比較したところ、一般サンプルに比べて比較的可処分所得が高く高学歴であること、メディア接触ではテレビへの関心が薄いことなどを報告している。
このような傾向については、アメリカでも同様の結果が得られており、例えば、Maisel
et al.(1995)では、ネットワークユーザーは"upscale"、すなわち高学歴、高収入で男性が多く、またマイノリティグループの出身者が少ないことが指摘されている。
もっとも従来に比べると、そのような傾向は近年緩和されつつある。女性ユーザーが急速に増加しつつあるのはその一例で、Muzzio
and Birdsell(1997)においては、1996年キャンペーンの調査におけるインターネットユーザーのうち、男性の占める割合は55%と、男女比が非常に接近している結果も得られている。日本においても、今後のネットワークの普及の結果、デモグラフィック特性は一般のものに近づいていくことが予想される。
その他、一般的な特性としては、コンピュータや情報への関心が高いことなどが考えられるであろう。このような特性の違いが調査結果にもたらす影響については、Prodigy会員とGallup調査の大統領業績評価の時系列傾向を比較したMaisel
et al.(1995)に興味深い結果がある。前述の通り時系列の動きはどちらのサンプルにおいてもほぼ一致した傾向を示していたのであるが、Prodigy会員の方が、若干早く変化を示す傾向がみられたのである。この点について彼らは、Prodigy会員が一般よりニュースにより敏感な傾向があるからではないかとしている。
また、(ユーザーの中で)電子ネットワーク上の調査に参加する人間が持つ特性といったものも考えることができる。Couper
and Rowe(1996)は、CAPI状況において、自らコンピュータに回答を入力するCASIを行ったものは、教育水準が高く、男性に多く、またコンピュータの利用経験が多かったことなどを明らかにしている(もっとも、CASIの対象は一般サンプルである)。ここで、1995年から1996年にかけてNIFTY-Serveの会員を対象に行われたランダムサンプリング調査を分析し、ネットワーク調査に参加する人間の特性の検討を行った。95年の調査は5000人のランダムサンプルに対して郵送調査で、96年の調査はその回答者でIDの判明している2113人を対象に、今度は電子メールで調査告知を行い、オンライン上の専用調査システムによってデータを収集した。最終的に96年の調査に回答した人間は668人である。ここで、95年調査の諸項目を用いて、96年の調査参加を予測したロジスティック回帰分析(変数グループ段階投入)の結果を図表6に示す。
図表6 電子ネットワーク調査参加を予測するロジスティック回帰分析
I II III IV V ------------------------------------------------------------------------------ [フォーラム参加] フォーラム ROM参加 .107*** フォーラム発言参加 .098** [通信スキル] 情報処理スキル .045 .028 エキスパートモード .127*** .115*** オートパイロット -.032 -.041 [通信歴・頻度] 通信歴 .053* .031 .017 通信頻度 .238*** .205*** .188*** [基底的心理特性] オピニオンリーダー .089** .058* .052+ .054+ イノベーティブネス -.003 -.007 -.013 -.012 情報欲求 -.026 -.027 -.024 -.029 [デモグラフィック変数] 性別 -.014 -.011 -.006 .003 .009 年齢 -.076** -.095*** -.071* -.061* -.044 技術系職業 .038 .036 .027 .032 .032 県庁所在市居住 -.001 -.003 -.022 -.025 -.028 ------------------------------------------------------------------------------ N 2108 2108 2089 2071 2071 -2 LOG L 2619.830 2609.179 2504.592 2459.245 2446.527 50%カット的中率 .684 .684 .678 .680 .679 ------------------------------------------------------------------------------ +; p<.1 *; p<.05 **; p<.01 ***; p<.001 表中係数は標準化ロジスティック回帰係数
デモグラフィック変数については、ほとんど調査参加に影響を与えていないが、年齢が上がるほど参加しない傾向が見られるようである。基底的心理特性については、これもほとんど影響を与えていないが、オピニオンリーダーシップの高いものが調査に参加する傾向が見られる。調査参加に決定的な影響を与えるのが通信頻度であり、頻繁に通信を行うものほど調査に参加する傾向が高い。
通信頻度と並んで影響を与える変数は、スキル、特にエキスパートモードの利用能力であった。これは、メニュー方式ではなくコマンドをキーボードで直接入力することによってネットワークを利用する能力であり、キャラクターベースのコンピュータ操作に習熟していることが、専用調査システムへの参加に影響を与えているのは興味深い。
他に、フォーラムに参加していないものに比べて、発言を読むだけ、あるいは発言を行うといったフォーラムへの関わりの強さも調査参加に影響していた。なお、この分析は調査不参加者と、ネットワーク退会者を区別できていないというデータ上の問題点がある。フォーラムに参加しているものはネットワークをやめにくいといった影響も分析結果に混在している点には注意を要する。
では、ネットワークユーザーを党派心(Party Identification)や投票行動という点から考えたとき、何らかの偏りが考えられるであろうか。日本ではこのようなデータはほとんど存在しないが、アメリカにはいくつかの結果が存在する。まず、Maisel et al.(1995)は、ネットワークユーザーが"upscale"であり、政治的には"registered Republican"が多いとしている。しかし、ネットワークユーザーの層が広がりつつある最近では、むしろ一般の分布と政治的傾向がほとんど変わらない結果が得られるようになっている。例えば、Muzzio and Birdsell(1997)の、96年キャンペーン時の一般調査サンプルをインターネットユーザーと非ユーザーに分割して比較した研究では、ネットユーザーがClintonに49%、Doleに40%、Perotに9%投票していた一方で、非ユーザーにおいてはそれぞれ48%、43%、8%という結果であり、投票傾向がほとんど変わらなかったことを示している。また党派心で比較すると図表7のようになる。参考までにRoper Centerによる調査結果と比べても、インターネットユーザーのパターンがほかと特に隔たっているわけではないことがわかるだろう。後述のGVUサーベイにおいても、WWWユーザーの政党支持パターン、投票行動が一般と比べてそれほど隔たっていない結果がうかがえる。
図表7 インターネットユーザーの党派心
Republican Democrat Independent --------------------------------------------------------------- ネットユーザー 35% 38% 21% 非ユーザー 34% 40% 21% 参照:96年9月 32% 36% 26% --------------------------------------------------------------- 注:ネットユーザー、非ユーザーはMuzzio and Birdsell(1997)より、 参照データはDautrich(1996)より
では、電子ネットワーク調査においては、どの程度の回収率が期待できるであろうか。過去数年の間に日本で実施されてきたネットワークユーザーに対する調査研究での回収率を図表8に示す。
図表8 電子ネットワーク調査における回収率
調査時期 調査対象 サンプル数 回収数 回収率 サンプリング法、調査法 出典 -------------------------------------------------------------------------------------------------------------- [WWWユーザー] 1996/8 Bekkoame 49,684 3,358 6.7% 悉皆調査、電子メール告知、WWWで回答 (1) 1996/7 ASAHIネット 1,500 533 35.5% ランダムサンプル、郵送調査 (2) 1996/7 ニューコアラ 1,000 386 38.6% ランダムサンプル、郵送調査 (2) [電子会議室発言者] 1995/1 comp (Inet 4ニュース) 955 198 21.5% 対象発言者悉皆、電子メール調査 (3) 1994/12 fj (Inet 2ニュース) 72 38 52.3% 同上 (3) 1995/1 NIFTY (2フォーラム) 382 193 51.0% 同上 (3) [電子会議室参加者](注) 1996/12 NIFTY Aフォーラム 約63,000(注) 166 ----- フォーラム掲示で告知、調査システム (4) 1996/12 NIFTY Bフォーラム 約16,000 149 ----- 同上 (4) 1996/12 NIFTY Cフォーラム 約32,000 121 ----- 同上 (4) [パソコン通信参加者] 1993/12 NIFTY-Serve 5,000 589 11.7% ランダムサンプル、電子メール調査 (5) 1995/6 NIFTY-Serve 5,000 2,264 45.2% ランダムサンプル、郵送調査 (6) 1996/10 NIFTY-Serve 2,113 668 31.6% 昨年回答者パネル、メール告知、調査システム (6) 1996/10 NIFTY-Serve 7,000 1,252 17.8% ランダムサンプル、メール告知、調査システム (6) -------------------------------------------------------------------------------------------------------------- (注:各フォーラム会員数。調査時点での1日平均アクセス人数はA、B、Cそれぞれ1,710、766、1,756) 出典:(1)川上(1996)、(2)東京大学社会情報研究所・野村総合研究所(1996)、(3)柴内(1997)、 (4)宮田・柴内・鈴木(1997)、(5)古賀・川浦(1994)、(6)池田(印刷中)
電子ネットワークユーザーを調査対象にしたとき、郵送調査を用いれば回収率は4割前後と、一般の郵送調査の回収率と同程度の結果が得られることがわかる。ただし、池田(印刷中)に示した、郵送調査回答者を対象にした翌年の調査システムでの回収率は、31.6%とそれほど高くない。一度調査に協力しているにも関わらず、専用調査システムで調査を行うと成績がよくないということは、図表6が示しているように通信頻度や通信スキルといったものが強い影響を与えている結果であると考えられる。
また、ランダムサンプリングして電子メールで調査参加を依頼しても、そのメールが読まれていない可能性もある。電子会議室発言者を対象に行った電子メール調査の回収率は概して高かったが(柴内,
1997)、発言者はネットワークのヘビーユーザーであり、またこの場合調査テーマがインテルのペンティアムバグ事件時の情報伝播過程の研究ということで、対象者の関心が高かったことが一因と考えられる。一方で、一般的なコミュニケーション研究よりのテーマだった古賀・川浦(1994)の回収率は、ランダムサンプルであることもあり1割強とあまり高くない。同様にランダムサンプルに対しメールで調査告知をし、調査システムで回答を求めた池田(印刷中)の回収率は2割弱といったところだった。この中で唯一WWWによる調査システムを用いた川上(1996)の回収率は1割に満たなかった。これは、WWWのインターフェイスの問題というよりも、インターネットプロバイダーの会員はWWWにアクセスすることが中心であり、そこで与えられるメールアカウントを利用していない(調査告知を読んでいない)という可能性が考えられる。実際、東京大学社会情報研究所・野村総合研究所(1996)の、プロバイダー会員を対象にした郵送調査の回収率は比較的高かった。
電子会議室のメニューに調査告知を掲示して、調査への参加を求めた場合どの程度の回収数が見込まれるかについては、宮田・柴内・鈴木(1997)のデータがある。この調査では、調査期間(10日間)中1日あたりのフォーラム参加数、すなわち告知接触者が平均1,000〜2,000程度であり、回収数は200未満であった。また、この調査では回答者全員にテレホンカード贈呈というインセンティブがついていた。掲示の方法や数、場所や調査期間にもよるであろうが、調査告知を掲示した場合の参加数の目安となるであろう。なお、大手企業等が行うWWW調査では、数千以上の回収数が見込めるものも少なくない。
このように、電子調査の回収率は概してそれほど高いとは言えないが、それはさまざまな要因に規定されていると考えられる。回収率の向上のためには、回答者にインセンティブをつける、調査に関心を持てるようテーマや内容を工夫する、少なくとも調査依頼は郵送で行うなど複数のメディアを用いて対象者にアクセスする、あるいは電子メールの調査依頼も画一的なダイレクトメールではなく、可能なら対象者の名前を含ませてみるなどのさまざまな手法によって改善を図れる可能性があり、これは今後の重要な検討課題でもある。
最後に、WWW上で行われている世界最大規模のユーザー調査について紹介する。これはジョージア工科大学のGraphic,
Visualization,& Usability Centerで実施されているGVU
WWW User Survey(URL http://www.cc.gatech.edu/gvu/user_surveys/)である(図表9)。これは完全に自己選択参加方式の調査であり、電子掲示板や主要サーチエンジンなどのWWW上で広く調査告知を行って参加者を募集している。この調査は半年おきに定期的に行われており、1996年10月に行われた第6回調査から特にインターネットにおける政治参加活動や政治情報接触など、政治領域に関する質問セクションが追加されるようになった(Party
Identificationなどは一般項目として以前から含められている)。回答者は現在1万人から2万人を数え、うち8割以上がアメリカの回答者である。この調査の特徴は、データセットとコードブックが無料で公開されており、誰でも自由に分析を行うことができる点にある。また、回答者にはユニークなIDが振られ、次回調査参加時にはそのIDを入力するようになっており、パネル分析の可能性もある。
第6回調査のParty Identificationの結果を見てみると図表10のようになっている。図表7の結果から考えても、それほどの偏り存在しないであろうと考えられる。これは、大統領選(疑似)投票のパターンにもあらわれており、調査結果をClinton、Dole、Perotの3人の比率で考えると55.4%、35.5%、9.1%となる。これはCNN/USA
Today/Gallup調査の調査誤差範囲内に落ちる結果であるとGeorgia
Tech Research Corporation(1996)は述べている。
図表10 GVUサーベイにおけるParty Identification
Republican Ind. Rep. Independent Ind. Dem. Democrat Libertarian ----------------------------------------------------------------------------- 21.5 11.35 6.9 13.84 23.89 7.23 -----------------------------------------------------------------------------
GVUサーベイは、もちろんサンプリング調査ではないため統計的仮説検定はもともと不可能であるが、回答者数が非常に多い点、同じ方式で半年ごとの定点観測が行われパネル分析の可能性もある点、データが完全に公開されている点などさまざまな特徴があり、目的次第で有用なデータソースとして利用できると考えられる。
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