訳注の追加・補足等
訳注を本文に挿入したため、可読性を損なう可能性のある細かい、もしくは専門の用語(であるが文脈や簡単な検索で理解可能なもの)の解説をかなり省
きましたが、質問を受けたものなどを含め、そのうちのいくつかを掲載します。随時書き換えの可能性がありますのでご注意ください。
ページ・行番号等は第1刷時点のものです。
- [P16L21] 【恩恵銀行<フェイヴァー・バンク>】(「親切銀行」より訂正)小説
『虚栄の篝火』(中野圭二訳、文藝春秋)の第17章タイトル。登場するキリアン弁護士が、ニューヨークの刑事裁判制度を指して、裁判所内では、誰もが自分
以外の全ての人に対して恩恵を施すことによって機能していると説明した。そこではあらゆる機会を利用して「恩恵銀行」への預金が行われており、それは「お
返し」<クイド・プロ・クオ>ではなく、万が一の時の貯えとして機能していること、それは刑法の不可避のグレーゾーンにおけるミスに対する助けとなってい
て、きちんと恩恵銀行に預金をしてあることによって、契約を求めることができるとした。キリアン弁護士は以下のように説明する。「この裁判所の誰もが、
『情けは人のためならず』という諺を信じているからね。要するにあなたが今日あたしの面倒をみてくれなければ、あたしは明日あなたの面倒を見てあげないっ
てこと。」
- [P17L1 および帯4] 【ヨギ・ベラ(追加)】なお、ベラはこの種の数多くの独特の「名言」で知られており、それらはヨギイズム(Yogiism)と呼ばれている。例えば「(試合は)終わるまでは終わらない」(It
ain't over 'til it's over)、(ナイターに負けた時の)「明日の晩は別の日さ」(Tomorrow
night is another day)など。http://en.wikipedia.org/wiki/Yogiisms
を参照。
- [P17L11]【ブランチ・デュボア(追加)】南部の名家出身だが身を持ち崩し、男性を渡り歩く生活のブランチ・デュボア
は、地元に追い出されるように妹夫婦の家に転がり込む。妹の粗野な夫との軋轢や周囲の人間関係の中で、虚飾に隠されたデュボアの過去が明らかとなり、彼女
の精神の破綻は抑えられないものとなる。なお、「(私はこれまで)見知らぬ人の親切に頼っていた」というのは、映画のエンディングで精神科医に彼女がつぶ
やく台詞である。また、劇中では庶民の典型的な娯楽(社交)としての(チーム)ボウリングやポーカーが描かれるという点でも本書に関係している。
- [P18L11]【クンバヤ】クンバイヤとも。ゴスペル曲の一つ。「クンバヤ、わが主よ、クンバヤ」(Kumbaya,
my Load, kumbaya)といった歌詞がゆっくりと幾度も繰り返される。元となった表現は"Come by
here"とされる。1960年代フォークブームの象徴的存在である歌手ジョーン・バエズのレコーディングなどにより広く知られており、キャンプソングの
定番でもあるが、含意として「理想主義的、夢想的な」といったニュアンスの表現として用いられている。
- [P34L11]
【コホート】コーホートとも。社会学や疫学等でしばしば使われる概念で、通常は同時出生集団(出生コホート)として、同年(あるいは同時期)に生まれた集
団を指す。加齢等による「年齢効果」や、あらゆる年代層が同時に影響を受ける疫病流行等の「時代効果」では説明できない、特定の出生集団が特定の時期に経
験した事柄がもたらす影響を検討するのに必要となる概念である。いわゆる「団塊の世代」のような表現における「世代」に近い。本文中での「イントラコホー
ト」変化とは、(世代内それぞれで起こるため)世代を超えて全体に広がる変化を指し、「インターコホート」変化とは、特定のコホートが変化し、かつ世代交
代が起こることによってもたらされる社会変化を指している。
- [P39L9]【GOTV活動】投票日直前、また当日に行われる、既知の支持者に対するチラシ配布、電話等を通じた投票呼びかけや、投票所への送迎活動を指す。
- [P43L5]
【アーカイブ】一般には文書館・書庫等を指すが、本書においては基本的に「データ・アーカイブ」の意味で用いられている。長期にわたって継続的に行われた
社会調査等のデータを分析に供するために整備、蓄積しているもので、GSS(一般社会調査)、DDBニーダム調査などの特定の調査シリーズの集積をアーカ
イブと呼んでいる場合と、そういった調査データを集積する機関をアーカイブと呼ぶ場合もある。後者の代表的な機関として、米国ではInter-
university Consortium for Political and Social Research(ICPSR, http://www.icpsr.umich.edu)、日本では東京大学社会科学研究所日本社会情報研究センターSSJデータアーカイブ(SSJDA,
http://ssjda.iss.u-tokyo.ac.jp)などがある。
- [P46L14] 【シュライン会】 1870年成立のメーソン系結社、シュライナーズ(Ancient
Arabic Order of the Nobles of the Mystic Shrine, http://www.shrinershq.org/)。メンバーはトルコ帽を被ることで知られる。
- [P106L9]【イディッシュ語】中高ドイツ語にスラブ語・ヘブライ語等の混じった言語で、ヘブライ文字で記述する。東欧、欧米のユダヤ人・移民によって用いられる。
- [P132L5]【レッドソックス】メジャーリーグのボストン・レッドソックスは、原著刊行(2000年)の段階で、
1918年以来長きにわたってワールドシリーズで優勝することができなかった。レッドソックスがトレードに出したベーブ・ルースの愛称にちなんで、このこ
とは「バンビーノの呪い」と呼ばれた。なお、その後レッドソックスは2004年に86年ぶりのワールドシリーズ制覇を果たした。
- [P148L4]
【「受託責任の精神」<スチュワードシップ>】キリスト教会における、富は神からの授かり物であり、信徒はその恵みを責任を持って管理し、使用するように
仕え応えなければならないという考え方。一方でこの言葉は、教会財政に対する献金・奉仕の強調という文脈でしばしば用いられ、またそのような運動・活動と
して理解されることがあった。
- [P168L6]【ローリングストップ】一時停止標識(ストップサイン)において、タイヤの回転を止める完全停止(フルストップ)をせず、徐行のみで通過すること。交通違反行為。俗称で「カリフォルニア・ストップ」とも。
- [P202L16]【過越祭のセデル(追加)】過越祭とは出エジプトの故事にちなんだユダヤ教の春の祭り。過越祭において家族(や親しい友人)が集まって行われる象徴的な晩餐の儀式がセデルである。
- [P247L1]【スプロール】都市が郊外に向けて無秩序、無計画に拡大していく現象(urban
sprawl)を指す。sprawlは不規則に広がるの意味。
- [P268L3]【ブロコウやジェニングス、ラザー】トム・ブロコウ(1940年生)、ピーター・ジェニングス(1938年生)、ダン・ラザー(1931年生)はそれぞれNBC(Nightly
News)、ABC(World News Tonight)、CBS(Evening News)の三大イブニング・ニュース番組(東部時間18:30〜19:00)を80〜90年代に(原著刊行時点にも)担当していた米国を代表するキャスターである。
- [P311L8] 【ビル・クリントン】1946年生まれであり、本書で言う「ブーマー」に属する。
- [P327L18] 【青色の星】戦時中に家庭、団体で掲げられていた軍籍旗(service
flag)のこと。白地に赤い縁取りのされた旗で、その中に従軍中の者を青い星形で、戦死した者を金色の星で示した。
- [P351L7] 【ブロコウの手による著作】 トム・ブロコウのベストセラー、The
Greatest Generation (1998, Random House) を指す。
- [P351L10]【ジェファーソン・スミスやジョージ・ベイリー(追加)】どちらもフランク・キャプラ監督作品。『スミス
都に行く』では少年団<ボーイレンジャー>のリーダーであった純真な青年ジェファーソン・スミスが思いがけなく上院議員に担ぎ出され、議会で政治的腐敗と
対決する。スミスがフィリバスター(長時間演説による議事妨害)で力尽きるまで戦うシーンでもよく知られている。『素晴らしき哉、人生!』では、半生を自
分を犠牲にして人々のために尽くしてきたジョージ・ベイリーが、いよいよ自分の人生を悲観しクリスマスに自殺しようとするところで、天使が現れ彼がいなけ
ればこの世界はどうなっていたかを見せられる。やがて家に帰る決心をしたベイリーは、周囲の人々からこれまでの人生に対する報いを得ることとなる。両作品
とも、本書のテーマに非常によく合致した内容である。
- [P353L16]
【一九九九年に多発した校内発砲】本書執筆時点の1999年には、コロラド州のコロンバイン高校銃乱射事件(4月20日)が発生したが、直後の28日には
カナダ・アルバータ州のW・R・マイヤーズ高校で、さらに1か月後の5月20日にジョージア州のヘリテージ高校でと、短期間に校内発砲事件が連続して発生
した。
- [P354L10] 【ボブとローズマリー、ジョナサン】パットナム夫妻および子息のファーストネーム。
- [P357表4] 【501条[c]3項】米国の内国歳入法501条[c]3項に規定された、宗教、慈善、科学、文芸、教育等を目的とした非営利の公益法人を指す。連邦所得税が非課税になるほか、その団体に対する寄付にも税控除が認められる。
- [P398L7] 【自家製<ホームブリュー>コンピュータクラブ】
1970年代にシリコンバレーで活動したコンピュータのホビークラブ。アップル創業者のスティーブ・ジョブズやスティーブ・ウォズニアックが参加していた
こと、またその会報にマイクロソフトのビル・ゲイツによる、ソフト(BASIC言語)の無断コピーに抗議する「ホビイストへの公開状」が掲載されたことな
どでパーソナルコンピュータの黎明期にその名を刻んでいる。ホームブリューとは自家醸造の意。
- [P42613]【塔結社<タワー・ソサエティ>】コムーネにおいて見られた、姻戚派閥による自衛組織である「コンソルテリ
ア」を指す。コンソルテリアは相互扶助の誓約の下に参加する組織であり、各コンソルテリアは石造りの高塔を建築しそこで防衛や、弓・石などによる路上、他
塔に対する攻撃を行った。13世紀初頭のフィレンツェにはこのような塔が少なくとも150建てられていたという。
- [P472L6]【「多数」の内の「統一」(追加)】"E
Pluribus Unum"は、もともと独立時の十三植民地の連邦たる建国を指していたが(ちなみに、標語自体も13文字となっている)、これは移民国家である米国の多様性も後に含意するようになった。現在も米国の国璽等にはこの標語が刻まれている(http://www.state.gov/documents/organization/27807.pdf)。その後、米国の標語は"In
God We Trust"(われら神を信ず)とすることが合衆国法典によって定められた(1956年)。
- [P497L3] 【何事にも時があり…】旧約聖書
伝道の書(コレヘトの言葉) 3:1
- [P497L4] 【ピート・シーガー】その作による"Turn
Turn Turn!"の副題、および歌詞中の表現が"to
Everything There Is a Season"である。ロックバンド「バーズ」のアルバムタイトル(1965年)及び収録曲として採用され人気となったほか、シーガー本人を含み多数のカバーがなされた。
- [P603L8]【プルーイット・アイゴー住宅計画】1950年代にセントルイスに建設された集合団地。予算の制約や、
ニューヨークの住宅計画を模して条件の異なるセントルイスに持ち込もうとした限界などから数年後にはスラム化して犯罪の温床となり、1972年に爆破解体
された。都市計画の失敗例として知られる。
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